ギャラリー・パルクでは、6月2日[火]から6月14日[日]まで、谷穹による個展「 LAND e SCAPE 」を開催いたします。
信楽にて製陶業を営む清右衛門陶房に生まれた谷穹(たに・きゅう / 1977年・滋賀県生まれ)は、2000年に成安造形大学立体造形クラス卒業後、彫刻家中ハシ克シゲ氏のアシスタントとして国内外の展覧会に同行するなど、おもに彫刻や立体造形による作品を制作していましたが、2002年ごろより本格的に陶に取り組み、現在は14世紀から15世紀の中世、室町時代に信楽で作られていたいわゆる「古信楽」の壷や甕などを指標として作品を制作しています。
文献など残る資料が少なく、その焼成方法など現在も分からない点が多い古信楽ですが、谷穹の成す焼き物に見られる特有の土味、自然釉によるビードロ釉の発色、穴窯や登窯によるカセ・コゲなどの諸相は古信楽の持つ特徴的な要素に迫るものであり、谷穹は焼成温度や期間などに試行錯誤を加え、時に自ら窯を築きながら、一歩づつ近づきはじめているといえます。
しかしながら谷穹は「見た目寸分違わぬ古信楽の再現」を目的とするのではなく、むしろこれまでの現代美術的な作品制作や作陶を通じて得た作品への見立てや仕組みを投影する上で、古信楽の持つ力強さと「遊び」がなにより重なる点が多いことを動機として、古信楽への探求を進めているといえます。
一様ではない様相(景色)がうつわや甕という物質に一元化された「やきもの」は、いわば機能と共に「遊び」を含み持つ、あるいは存在そのものが『遊び』であり、そこに多様な視点の在り方を示すとともに、鑑賞者がその遊びに加わる中で様々な景色を見出すことを促します。同時に空間に配された「やきもの」は、時に空間の中心として、あるいは空間の異端として存在しながら、そこに在り方(景色)をつくりだします。しかし、そこでも「やきもの」は、ひとつの固定化された景色のみを示すのではなく、鑑賞者によって異なる景色を見出すことを求めます。
やきものを「遊び」として、そこに鑑賞者の存在を必然と考える谷穹は、「古信楽」に見るこうした様相(景色)をやきものとして目指すとともに、自身のやきものの在り方(景色)へもその意識を向け、やきもののある空間を、ひと・もの・ま(空間)の相対的・相互的作用の働く場ととらえ、鑑賞者の「遊び」を誘うための「仕組み」を「しつらえ」として提示します。
谷穹による甕、壺や蹲(うずくまる)などのやきものを展観する本展では、その会場に鑑賞者の「遊び」を誘う「仕組み」がしつらえられ、鑑賞者は時に能動的に、時にやきものに行動を促されながら空間に遊ぶこととなります。やきものとしての「器(うつわ)」とともに、その仕組みを含み持つ「空間(うつわ)」を見せる本展では、鑑賞者の皆様には、目の前の景色(LANDSCAPE)に遊ぶうち、ふと気がつけばまるで別の場所に外れる(ESCAPE)かのような体験をお楽しみいただければ幸いです。
この展覧会にあるものは「うつわ」です。
花を選び摘み、いれものを選び、場所をつくって生けます。
「ゆ」は人により茶になることもあり、なにもなければ、蒸気となり消えます。
最後にあるものは、日常の景色です。
すべては人の介在によりかたちを変えます。
そして人は体を使って鑑賞することになります。
「 no you」の空白をうめるとき、
鑑賞者は、干渉者となります。
床に散る花片は、人が生けたからこそ現われます。
朽ちた何かは他人の行為を排除したことによるものです。
残り香は、人が花を移動させたり、茶を楽しんだ後のものかもしれません。
それらの行為に出会い交わることもあるでしょう。
干渉しあうことで、壷の景色もあなたの色に染まることでしょう。谷 穹